最近、ネット上で海外ワーホリの裏話や怪しげな求人トラブルの話題を見かけるたび、迷走客の頭には、何年も前に親しい美容師の友人から打ち明けられた「とんでもない実話」が鮮明に蘇ってくる。

昼ドラのような大げさなフィクションではない。ごく身近な生活の中で起きた、思わず冷や汗をかくと同時に「ちょっと待て、お前はどれだけお人好しなんだ!」と頭を軽く小突きたくなるようなリアルなエピソードだ。


ハサミ一丁と憧れのメープルの国

まずはその友人の話からしよう。

彼女はとにかく純朴で、真面目そのものな女性だった。美容室で何年も下積みを重ね、ハサミの腕前は折り紙付き。しかし実家の家計は楽ではなく、一家の大事な稼ぎ手として、毎日のように朝から晩まで立ちっぱなしでシャンプー、カット、カラーに追われ、手はいつも荒れていた。

ヘトヘトになって帰宅する夜道で、彼女はずっとひとつの夢を温めていた。「カナダで1年、生活しながら美容師として働いてみたい!」

彼女にとって、それは単に紅葉やロッキー山脈の絶景を眺める旅行ではなく、人生を変える大きなチャンスだったのだ:

  • 現地のサロンで欧米風の最新スタイリング技術を学び、腕を磨くことができる;
  • 当時のカナダの給与水準とチップ文化を考えれば、節約して暮らせば、台湾で必死に働くよりもはるかに多くの仕送りを家族に送ることができる。

夢を膨らませた彼女は業界の伝手をたどり、ついにカナダでヘアサロンを経営する「台湾系オーナー」と繋がった。

最初はLINEでのやり取りも実にスムーズだった。オーナーは面倒見の良い頼れる大先輩のように振る舞い、「就労ビザの申請も全部任せなさい」と太っ腹に約束してくれた。一時帰国の際に台湾で直接面接する約束まで取りつけ、彼女は「ついに私の人生にも追い風が吹いてきた!」と大喜びしていた。


突然のブロックと、パニックの新幹線ダッシュ

ところが、面接の日が近づいたある日、事態は急転直下する。

オーナーが何を思ったのか、突然LINEで彼女をブロックしたのだ! それだけでなく、「就労ビザの申請はすべて取り消した」という冷淡なメッセージまで残されていた。

約束の面接当日になっても、オーナーからは音沙汰ひとつない。完全な音信不通(ゴースト)である。

カナダ行きに生活のすべてを賭けていた彼女は、完全にパニックに陥った。「私の何かの一言が癇に障ったの?」「もっと優秀な人が見つかっちゃったの?」

居ても立ってもいられなくなった彼女は、思い余ってオーナーの電話番号へ直接ダイヤルしてしまった。

正直、この電話こそが相手の思う壺だったのだ。

電話に出たオーナーは、まるでこちらを見下すようにふてぶてしく言い放った。「台湾に戻ってからスケジュールが詰まっててね。わざわざ台中まで面接に行く暇なんかないよ。どうしても仕事が欲しいなら、今すぐ新幹線に乗って台北まで来なさい。」

普通ならこの時点で「おいおい、怪しすぎるだろ」と踏みとどまるべきところだ。だが焦りで冷静さを失っていた彼女は、「まだチャンスがある!」と飛びつき、バッグを掴んで新幹線へ飛び乗ってしまった。


駅前の甘い罠:「ジュースは1杯でいい、二人で一緒に飲もう」

台北のMRT(地下鉄)駅に着いた頃には、すっかり夜も更けていた。現れたオーナーは、駅近くのカフェレストランへ彼女を連れて行き、夕食がてら面接を始めた。

だがおかしなことに、いざ席に着くと、カットの技術やサロンの経験談などほとんど聞こうとしない。それどころか、先ほどまでの冷たい態度はどこへやら、じっと彼女の顔や体つきを眺めながら、「写真を見た時から君は特別だと思ってたよ」「すごく好みのタイプだな」と甘ったるい言葉を連発し始めた。

そして、極めつけはドリンクを注文する時の一言だ。オーナーはニヤリと笑ってこう言った。

「飲み物は1杯だけでいいよ。二人で仲良く一緒に飲もう。」

おいおい、これ以上わかりやすい下心があるだろうか!

しかし、頭の中が「面接を成功させなきゃ」でいっぱいだった世間知らずの彼女は、その場ではっきりと断る勇気も出ず、愛想笑いでやり過ごしてしまった。

食事が終わると、オーナーは一転して「気前のいい太っ腹社長」モードを発動した:

  1. 夕食を全額奢る:スマートに会計を済ませる;
  2. 新幹線代を現金で手渡す:台中〜台北の往復運賃をぽんと払ってくれる;
  3. ビジネスホテルを手配:「こんな夜遅くに女の子が一人で帰るのは危ないから」と、駅前のホテルに連れて行き、部屋を取って宿泊代までその場で支払ってくれた。

交通費を懐に入れ、ホテルのルームキーを手にした彼女は、すっかり舞い上がっていた。「ご飯も奢ってくれたし、交通費もくれたし、ホテルまで用意してくれた! 面接は大成功、オーナーも私を気に入ってくれた! これでカナダ行きは確実だわ!」と。


部屋で流れるテレビの音:見え透いた「下心」の正体

ここで話が終われば、心温まる美談だったかもしれない。

だが、世の中そんなに甘くはない。

エレベーターで部屋に上がり、カードキーでドアを開けて中に入った彼女。ふと後ろを振り返ると——なんと、そのオーナーがさも当然のようにスタスタと部屋の中に入ってきたのだ!

それどころか、当たり前のようにドアを閉め、上着を脱いでハンガーに掛け、ベッド脇のソファにドカリと腰を下ろすと、リモコンでテレビをつけてのんびり寛ぎ始めたのである。

部屋の中の空気は、一瞬でマイナス50度まで凍りついた。

目の前で悠々とテレビを眺め、一向に帰る気配のない既婚の中年オヤジ。どれほどおめでたい頭の持ち主でも、ここでようやく事の全貌を悟った。

これのどこが「後輩への親切な支援」だというのか。完全に最初から仕組まれた罠だったのだ:

  • 事前の突然のブロックとビザ取り消しは、彼女を焦らせて冷静さを奪うための心理ゲーム;
  • 台北まで呼び出し、新幹線代を払い、飯を奢り、ホテルを取ったのは、「大きな恩」を押し付けるため;
  • 「1杯のジュースを一緒に飲む」は、彼女がどこまでガードを緩めるかのテスト;
  • そしてエサとしてぶら下げられた「カナダの就労ビザ」。

オーナーの言いたいことは痛いほど明白だった。**「新幹線代もホテル代も出してやったんだ。今夜俺の相手をすればビザを出してやるが、断るなら明日そのまま台中へ帰れ」**という、ド直球の肉体関係の強要である。

幸いにも、世間知らずだった彼女だが、人としての最後の防衛ラインだけは死守した。絶対に一線は越えさせまいと、「もう本当に遅いので休ませてください」と必死に言い訳を並べて突っぱね続けた。気まずい沈黙と攻防が続いた末、これ以上は無理だと悟ったオーナーは、舌打ち交じりに部屋を出て行った。


迷走客のツッコミ:これを「職場の闇」なんて言葉で片付けるな!

この背筋の凍る脱出劇は、それから随分経ったある日、彼女が悔し涙を浮かべながら私に打ち明けてくれたものだ。

話を聞き終わった瞬間、私は思わず目を見開き、特大のツッコミを入れずにはいられなかった。「お前、アホすぎるだろ! ブロックされてビザ取り消された時点で怪しいのに、一人でホイホイ台北まで行って、挙句の果てに男を部屋に入れるなんて!」

彼女はしょんぼりと苦笑いしながら、「だって……これが世間でよく言う『職場の闇』なのかなって思っちゃって……」と呟いた。

その言葉を聞いて、迷走客は真顔で言いたい。

頼むから、ただのセクハラと悪質な脅迫を「職場の闇」なんて格好つけた言葉で誤魔化さないでくれ!

生活や仕事の中で、一発逆転したい、チャンスを掴みたいと焦るあまり、相手の下心に満ちた「見せかけの優しさ」を幸運だと勘違いしてしまう人は少なくない。

世界へ飛び出し、新しい場所でお金を稼ぎたいという夢自体は素晴らしいことだ。だが、これだけは絶対に忘れないでほしい:

  • 変な密室を指定してくる面接は、100%クロである;
  • 「飲み物を一緒に分け合おう」なんて言ってくる奴がいたら、即座に警戒アラートを鳴らせ;
  • まともな仕事は、あなたの実力で勝ち取るものであって、体を差し出して手に入れるものじゃない。

下心丸出しのオオカミを、人生の恩人だと見誤ってはいけない。自分の安全と誇りを守ることは、どんな華やかなカナダの夢よりも、ずっとずっと大切なのだから!

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