よく人から不思議そうに聞かれることがあります。「迷走客さん、いつも世界中をあちこち飛び回って気ままに迷子になっているのに、カメラや財布、パスポートに細かいガジェットまで持ち歩いていて、よく物をなくさないね?」と。
正直に言えば、旅の疲れと新しい風景への興奮が入り混じる中では、人間の「記憶力」ほど当てにならないものはありません。私が異国の街角で全身のポケットを叩きながら血の気が引くような大惨事をめったに起こさないのは、ずば抜けた記憶力があるからではなく、長年の放浪で身についた、ある優雅で少しばかり執拗な「小さな習慣」のおかげです。
それは、席を立って立ち去ろうとする時、何があっても必ず後ろを振り返って確認すること。
どこにいても欠かさない「立ち上がり3秒の儀式」
外出している時はいつでも——長旅の移動中であれ、賑やかなレストランでの食事中であれ、あるいは夕暮れの川岸を散歩していてふとベンチや石段に腰を下ろした一休みの場であれ——お尻を上げてその場を離れようとした瞬間、私の身体はプログラムされたかのようにひとつの動作を自動実行します。くるりと振り返り、今しがた座っていた椅子とその周囲の地面を隅々まで点検するのです。
もし日が暮れてあたりが暗くなっていたり、照明を落としたバーや街灯のない川沿いで視界が悪かったりすれば、迷わずスマートフォンや携帯懐中電灯を取り出し、ライトを点けて座面の隙間やテーブルの下までしっかりと照らして確認します。
傍から見れば、立ち上がった後にわざわざ振り返り、ライトまで当てて椅子を見つめる私の姿は、まるでその椅子に別れの挨拶でもしているかのように見えるかもしれません。しかし、このわずか3秒の「振り返りチェック」が、その後の何時間ものパニックや後悔を防いでくれることを私自身が一番よく知っています。
「座る・立つ」の動作に潜むポケットの物理的裏切り
多くの人はこう思い込みがちです。「さっきスマホも財布もテーブルの上に出していないから、落とし物なんてするはずがない」と。
ところが、旅先で最も厄介な泥棒は、すれ違いざまのスリではなく、自分自身のズボンのポケットと重力だったりします。
スマホや財布、傘などをテーブルや椅子の背もたれに置いてうっかり忘れるだけでなく、実はそれ以上に多いのが、ポケットの中の物が「座る」「立つ」という動作によって静かに滑り落ちるケースです。
レストランのソファに深く腰掛けたり、川辺の階段で膝を曲げたりした時、ポケットの口は自然と傾いて緩みます。さらに現代の滑りやすいスマホや服の生地の摩擦も相まって、小銭や鍵、リップクリーム、切符、さらには財布やスマホまでもが、姿勢を変えたり立ち上がったりした拍子に音もなく滑り出し、クッションの隙間や足元の草むらへと消えていくのです。
旅先に残すのは思い出だけ、椅子の上に家財は残さない
もし振り返って確認する習慣がなければ、30分後に飲み物を買おうとしたり駅の改札を通ろうとしたりして初めてポケットが空っぽなことに気づき、息を切らして全力疾走で戻った頃には、ただ無情にも空席だけが待っている……なんて悲劇になりかねません。
「席を立ったら必ず振り返る、暗ければ光で照らす」という良い習慣を脳で考える前の筋肉の記憶にしてしまえば、あちこちで物を落とすトラブルは劇的に減らせます。
なんといっても、生粋の迷走客たるもの、見知らぬ風景の中で颯爽と道に迷うのは大歓迎ですが、大切なスマホや財布をさっきの椅子の上に置き去りにするのだけは御免ですからね!
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